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秋田地方裁判所大曲支部 昭和49年(ワ)18号 判決

原告

野町之信

被告

六郷町農業共済組合

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し各自金三六万一、九七〇円およびこれに対する昭和四九年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二〇分しその一を被告らの連帯負担とし、その余は原告の負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一原告の求める裁判

被告らは、原告に対し各自金六八一万八、九五九円およびこれに対する昭和四九年二月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言。

第二被告らの求める裁判

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第三請求原因

一  原告は、昭和四五年八月一九日午前八時三〇分頃秋田県仙北郡六郷町野中字宮崎六七番地の一先路上を自動二輪車(以下単に原告車という。)を運転通行中被告畠山正邦(以下単に被告畠山という。)の操作する農業用薬剤散布車の固有装置であるホース巻上機のホースに接触、転倒し通院実日数一七〇日を要する左肩打撲傷、頸椎挫傷、左膝関接打撲傷の負傷をし、自賠法施行令第二条後遺障害等級表の第九級に該当する後遺症がある。

二  被告畠山は、農業用薬剤散布車を駐車さすに当り、散布用ホースが道路を横断することになる不適当な場所に駐車したばかりか、同散布車の固有装置であるホース巻上機を操作するに当り、前後の交通を全く確認しないで、右巻上機を作動させた過失により、ホースが路面から約七〇センチメートル位の高さで急に張り詰めたために、原告車のフエンダーと前輪の間に右ホースが巻きこまれ、原告車を転倒せしめたものであるから民法七〇九条による責任が、

被告六郷町農業共済組合(以下単に被告組合という。)は、被告畠山操作の車輌を所有し自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条による責任が、

また、被告組合は、被告畠山の使用者であるところ、同被告が被告組合の業務を執行中、前記の過失によつて本件事故を発生させたのであるから、民法七一五条一項による責任がある。

三  原告は、本件事故により次の損害を蒙つた。

1  金五万二、一五〇円 亀谷医院治療費

2  金一、二四五円 平鹿総合病院治療費

3  金二、四八〇円 秋田大学病院治療費

4  金四万九、八二〇円 マツサージ料

5  金一万二、五〇〇円 交通費

6  金一一八万九、九九九円 休業損害

原告は自転車販売修理業により金六〇万円、東邦生命保険相互会社の集金代理店業(集金、紹介、募集等の業務)により金二〇万円、交通指導員の職務に従事して金五万円、合計金八五万円の年収を得ていたところ、原告は本件事故により昭和四五年八月一九日から昭和四八年八月一五日までの間休業の止むなきに至り金一一八万九、九九九円の収益を失つた。

7  金三二一万三、七六五円 後遺症逸失利益

原告は、本件事故による後遺症のため、保険会社集金代理店業、交通指導員を廃業し、自転車販売修理業の売上げも減少し、昭和四八年八月一五日の症状固定後控目にみても三〇パーセントをくだらない利益の逸失が続いているので次の計算により後遺症逸失別益は金三二一万三、七六五円となる。事故時年令四二才、推定余命三一・六二年、年収八五万円、労働能力喪失率三〇パーセント、労働能力喪失の存すべき期間一八年

850,000円×30/100×12,603=3,213,765円

8  金一六〇万円 慰藉料

9  金七〇万円 弁護士費用

金一〇万円 手数料

金六〇万円 謝金

四  よつて、原告は被告らに対し損害額合計金六八二万一、九五九円から被告組合から弁済のあつた金三、〇〇〇円を除いた金六八一万八、九五九円およびこれに対する訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和四九年二月二一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四請求原因の認否

一  請求原因事実第一項のうち、負傷の部位、程度、後遺症は否認し、その余の事実は認める。

二  同第二項のうち被告畠山の過失は否認し、その余の事実は認める。しかし本件事故は被告組合が運行に供用している車輌の運行によつて、原告の身体を害したものではないので、被告組合に自賠法上の責任は無い。

三  同第三項のうち9を除き否認。9は認める。

第五抗弁

一  本件事故は原告の一方的過失に因るものであるが、仮に被告畠山に過失があるとしてもその割合は原告九九、被告畠山一の割合であるから、被告らは本訴において過失相殺の意思表示をする。

二  被告組合は原告に対し、昭和四五年八月三〇日頃金二、〇三一円、同月二〇日頃金一、二〇〇円、同年一〇月一日頃金一、二九五円、同月二日頃金一、九〇〇円を支払つた。

第六抗弁の認否

一  抗弁事実第一項は否認する。

二  同第二項のうち昭和四五年八月二〇日の金一、二〇〇円の弁済は否認し、その余は認める。

第七証拠〔略〕

理由

一  原告が、昭和四五年八月一九日午前八時三〇分頃、秋田県仙北郡六郷町野中字宮崎六七番地の一先路上を自動二輪車を運転し大曲方面から六郷東根方面に向け走行中、被告組合の従業員五名が農業用薬剤散布車を道路左側に駐車させ、農薬散布用のホースを道路を横断させ農薬を散布中であるところに通り合せ、ホース上を通過しようとした際、その接触の箇所は別として、ホースと自動二輪車とが接触し原告が転倒した事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告転倒の原因につき検討するに、成立に争いのない甲第八号証、第九号証の一、二および証人高橋義雄、同坂本慶一、同田口勇、同阿部孝の各証言ならびに原告および被告畠山各本人尋問の結果によると、本件事故当時被告組合の従業員である田口勇、中野貞孝、坂本慶一、高橋義雄および被告畠山の五名は本件事故現場付近で農薬の散布を実施していたが、被告畠山は農業用薬剤散布車の操作および道路上の交通の安全確保のため道路上の散布車付近に残留し、田口勇がホースの先端であるノズルを持ち、他の中野貞孝、坂本慶一、高橋義雄は、ホース先端から散布車までの間に点在し、ホースを田圃に引つ張り込む役目および薬剤散布中はホースを保持する役目を分担していた。また、被告組合の五名の従業員が散布車を道路左側に駐車せしめ、道路右側の田圃に薬剤散布したのは、薬剤散布に使用する水の便が道路右側には無かつたため止むを得ずそのようにしたものであつた。原告は、当時事故現場付近に自動二輪車を運転し、時速一五キロメートルで道路左寄を進行して来て、約三〇メートル前方の道路上をホースが横断しているのを発見したので、減速し、警笛を鳴らしたが、対向するオートバイがホース上を渡り進行して来たので、安全に渡れるものと判断し進行を継続したところ、ホースの一部が道路上に浮いていてそれが自動二輪車に引きかかり、自動二輪車は約六メートルホースを引張つた後転倒した事実を認めることができる。原告は、転倒の原因につき被告畠山がホース巻上機を作動させたためホースが路面から上にあがつたと主張し、原告本人尋問の結果および甲第八号証は右主張に副つたものであるが、甲第八号証の見取図によると、原告運転の自動二輪車はホースに引きかかつて後も道路右側に向つて進行している事実が認められるが若し巻上機を作動した結果ホースが路面から上にあがり自動二輪車に引きかかつたのであれば、引きかかつた瞬間から、その事態に気付き被告畠山が巻上機を停止せしめるまでの間はホースが自動二輪車を左に引き寄せることになるから、原告運転の自動二輪車は直ちに左に転倒するか、ホースに引きかかつた地点から道路左側に向つて進行しなければならない筈であるから、ホース巻上機作動中にホースが自動二輪車に接触したと認めるに十分でなく、原告本人尋問の結果および甲第八号証のうち原告主張に副う部分は措信できない。

また、一方で被告らは原告転倒の原因につき、原告運転の自動二輪車が古くスタンドのバネがゆるくなつて、地面とすれすれの状態であつたので、地面に密着していたホースをスタンドが引きかけたものであると主張し、被告畠山本人尋問の結果はこれに副つたものであるが、証人阿部孝の証言および甲第八号証によると、本件事故後実施された実況見分の際被告畠山から転倒の原因につきスタンドにホースが引きかかつたこと、またそれに近いような説明があつた形跡は全く認められないのであるから、右被告ら主張に副う被告畠山本人尋問の結果は措信できず、他に当裁判所の認定を覆すに足る証拠は存在しない。

三  証人亀谷道男の証言よりその成立を認められる甲第一号証によると、原告は本件事故により左肩打撲傷、頸椎挫傷、左膝関接打撲傷の傷害を受け昭和四五年八月一九日から昭和四八年八月一五日まで実治療日数一三三日間通院加療を続け、昭和四八年八月一五日症状固定に至つた事実を認めることができ、これに反する証拠はない。

四  証人田口勇、同坂本慶一、同高橋義雄の各証言によると、被告組合は組合の事業である農薬散布に当り、被告畠山ら五名を使用していたことは明らかであり、被告畠山ら五名は、水利等の関係からホースが道路を横断することになる場合は道路上を通行する車輌に注意し、二輪車の場合は下車せしめて通過させるか、ホースが通過車輌に接触しないよう板等で橋渡しするか等して危害を未然に防止すべきであつたのに、これを怠つた過失による不法行為を原因として、原告に傷害を与えたことになるから被告畠山は他の四名と共にする共同不法行為により、被告組合は事業のため被告畠山ら五名を使用していた者として、被告畠山ら五名が被告組合の農薬散布事業の執行中に、原告に加えた損害を賠償する責に任じなければならないが、右事故の態様ならびに成立に争いのない甲第九号証の一、二により認められる如く特殊四輪自動車と農業用薬剤散布車とは連結され得るようになつているが、農業用薬剤散布車は特殊四輪自動車の構造の一部とはいい得ない事実から考え、本件事故が自動車の運行によつて発生したものとは解せられないので、被告組合につき自賠法上の責任は発生しないものと判断する。

五  そこで、原告につき生じた損害額につき検討する。

1  成立に争いのない甲第三号証の一ないし八一によると、原告は亀谷医院に対し金三万四、六五六円を、成立に争いのない甲第四号証の一ないし四によれば平鹿総合病院に対し金一、二四五円を、成立に争いのない甲第五号証の一、二によれば、秋田大学病院に金二、四八〇円をそれぞれ本件事故による負傷治療のため各支払つている事実が認められる。なお、成立に争いのない甲第三号証の八二、八三によると原告は亀谷医院に対し更に昭和四八年一一月一〇日に一八三円、同年一二月七日に二一九円を支払つているが、甲第一号証によると原告の症状は昭和四八年八月一五日固定しているのであるから、右出費は本件事故と相当因果関係の範囲外にあるものと判断する。

2  マツサージ料については、医師において医師の治療行為以外にマツサージが治療上必要であると認めた事実について、これを認めるに足る証拠はなく、交通費についても原告主張の出資を認めるに足る証拠はなく、いずれもこれを認めることができない。

3  証人亀谷道男の証言によるも、原告が事故後休業を必要とする程の症状にあつた事実はこれを認めるに十分でなく、また原告本人尋問の結果により成立を認め得る甲第一九号証ないし第二三号証によると、原告の所得金額は昭和四四年度から昭和四八年度まで、昭和四四年度は金七万九、五四三円、昭和四五年度は金一一万六、五二九円、昭和四六年度は金二八万六、九九五円、昭和四七年度は金三四万八、六四六円、昭和四八年度は金五〇万〇、七九四円と各年順調に伸びている事実、事故前の昭和四五年一月から七月までの間には合計一九八万〇、一四〇円の売上げがあり、これを前年の昭和四四年の同期の売上げ高の合計二一八万六、六九〇円に比較すると、約一〇パーセントの売上減となつているが、事故後の昭和四五年八月から一二月までの間には合計九七万一、二九一円の売上げがあり、前年同期の売上げ高合計一〇一万一、九九〇円と比較して五パーセントしか売上げが減少していない事実、がそれぞれ認められるのであるから、本件事故は原告の収益に何等影響を及ぼしていないものと判断される。

4  証人亀谷道男は、原告は後遺障害等級八級に該当すると証言するが、同証人の証言および甲第一号証から認められる原告の症状のいずれをみても後遺障害等級表に示された各等級のいずれにも該当せず、且つ労働能力喪失は認められない。

5  以上認定の事故の態様、原告の負傷の部位、程度等から考え、原告が本件事故により蒙つた精神的打撃は金二〇万五、〇〇〇円で慰藉されるものと判断される。

6  原告が本件訴訟を弁護士に委任し、着手金一〇万円を支払つた事実は当事者間に争いなく、報酬額は以上認定額合計金二四万三、三八一円から後に認定する弁済済の金五、二二六円を控除した残額金二三万八、一五五円の一割に相当する二万三、八一五円が相当であるから被告らの負担に帰すべき弁護士費用は一二万三、八一五円となる。

六  被告主張の弁済の抗弁のうち金五、二二六円については当事者間に争いなく、金一、二〇〇円を昭和四五年八月二〇日弁済した事実はこれを認めるに足る証拠はなく、さらに被告は過失相殺を主張するが、以上認定の本件事故発生の経過から考え、原告には過失が認められないので過失相殺の主張は失当である。

七  そうだとすると、被告らは原告に対し、原告が本件事故によつて蒙つた損害額合計金三六万一、九七〇円とこれに対する本件訴状が被告らに送達された日の翌日であることが記録上明白な昭和四九年二月二一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わねばならないことになる。

よつて、原告本訴請求のうち右理由の認められる部分を認容し、その余は棄却することとし、民訴法九二条本文、九三条一項但書、一九六条一項を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川邦夫)

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